0129 6つのクリスタル

そこには6つのクリスタルのグラスがあって
海色のグラスには真実を記した手紙が
ジャスミン色のグラスには手作りのパンが
寂しさ色のグラスには楽しいおしゃべりが
火星色のグラスには見知らぬ未来が
夕暮れ色のグラスには世界を見渡す望遠鏡が
色のついていないグラスには透き通った水が
それぞれ注いでありました
そこへウェイトレスの微風がやってきて言いました
どれでもお好きなものを一つお取り下さい
どのクリスタルのグラスも本当に美しくて魅力的でした
ああでもないこうでもないと迷った挙げ句…
僕は色のついていないグラスを選びました
欲がなかったからと言いたいところですが
ホントのところそれしか飲めるものがないと気づいたからです
なんだか騙されたような気分にもなりましたが
ゆっくりと手に取ったグラスの透き通った水を飲み干すと
少しづつ不思議と心が澄んできました
どうしてだろう?

透き通った水はいつか飲んだ澱みのない涙の味がしました

0303 21世紀最初の恋

これは21世紀最初の恋

休日の朝早くに眠い目をこすりながら
ベットから這い出し
冷た過ぎる水道水で顔を洗い
シャカシャカとキシリデントで歯を磨き
ボーッと鏡にウインクして
運命の女神に今日が忘れられない一日になりますようにと願をかける

ピ〜ス☆
願いは大きく膨らんでいた期待以上に叶えられたのだ!

2001年3月3日
日曜日 午前11時45分
誰もが絶賛する評判の彼女に
僕も一目で恋に堕ちた

彼女を見つめている間中
僕は僕でなく電流か鼓動になっていた
なんでもない日常の出来事が
まるで一瞬一瞬の美しい絵画のように過ぎ去って行った
ワクワクする想いにシャッタースピードがとても追いつけない
彼女のチャームポイントを分析するために用意したメモもとっくに破り捨てていた

心の内を表現する上手い言葉が見つからないけれど
僕は前に一度だけ同じような感覚に陥ったことがある
そう
僕は初めてローマの休日を見た時と同じ矢に射抜かれるように
今日 スペイン坂の上でアメリに恋をした

0311 半分のシュークリーム

半年が長かったのなら
コートを脱いで
少し早い春の草原で
両腕と両足を放り出して
陽射しを全身に浴びると良い

奪われた眠りを
深呼吸して吸い込んで
半分凍りかけた心を
半日費やしてゆっくりと解凍する

もしも半年が短かったなら
今日は仕事を休んで
一緒にアフタヌーンティーに出かけよう

きっとここまで死物狂いで
猛スピードで走って来たに違いない
ストレートが好きなきみだけど
今日は砂糖を一杯だけ入れると良い

現実をそのまま飲み込むよりも
甘いものが大好きだった子供の頃のように
ほんの少し夢があった方がいい時がある

きみなら砂糖の代わりに
シュークリームを頼むかも知れないね
それならそれで十分なんだ
幸せは自らの手でつかみ取るのが最良の方法

そしてきっときみのことだから
半分僕に分けてくれることだろう

僕はその半分を

大きいと思うだろうか?

小さいと思うだろうか?

これから起こることは
あまり想像がつかないけれど
今日僕が忘れちゃいけないことがひとつある

それはどんな大きさの幸せだろうと
手にしたら心から感謝することだ

幸せに半分なんてないのだから

0424 押し花の手紙

銀河の列車に乗って
届けられた一輪の押し花

何かの音? ざわめき? 誰かの声?
闇の彼方から突然に
僕の体の内側を占領する光景
それは向けられた銃口に花を挿す少女の姿

心と心の接触
四つ折にたたんだ想いが
再び息を吹き返す瞬間

新緑の上に顔を出したような可愛らしい挨拶と
プラタナスのように優美に咲き乱れる感嘆詞

そこに土があり 陽があり
水があり 風があるならば
悲しみの雨さえ生命力に変え
花はきっと育つことでしょう

届いた手紙に綴られた文字が
もしも涙で滲んでしまっていたら
そこに記されたものは決して銃弾などではなく
生命力に満ちた想いが花を開かせた
一輪の逞しい押し花なのだと
つぶらな瞳で囁くように胸に響いてくるのです

花を花として
幻想を幻想として
温もりを温もりとして
贈り届ける尊さを
あたかも「忘れないで」と物語るように

静寂と安らかな想いが僕をすっかり満たした時
胸の奥でありがとうと呟くと
遠くで汽笛の音が応えるのが聞こえました

0627 微睡みのシエスタ

てぃくん とぅくん てぃくん とぅくん
じ る る る る る る る る る る る る る る

秒針が数字と影踏みして遊ぶ足音と
小さな水槽のさざ波だけが
ぼんやりと微睡みの中を漂う

ああ これは幼い日のシエスタ
遊び疲れた後の柔らかな時間
硬い床と強い陽射しが
ふんわりと柔らかくなるひととき

思い出にゴロンと寝ころんだきみと僕は
まるでベランダに干した洗いたての靴のよう

0727 第2ボタン

何をやっても上手くいかないと嘆くきみ

自分がしてることは間違ってないはずなのに
何もかもが否定されてしまうことに戸惑うきみ

けれど負けるもんかと気を引き締めて
何度も何度も再チャレンジを試みる

周りの人がくすくすと笑っているようで
きみは昨日より余計に小さく身を屈める

幾度か自分の頭の方を疑ってもみたが
うんうんと首を振り勇気で背を押し胸を張る

自分のしてることが理に適ってることを
どうして誰も理解してくれないのだろう?

もしも自分は正しいことをしてるはずなのに
何もかも上手くいかず誰にも理解されない時は

大きな鏡の前に立ち自分を見つめ直した方が良い
そんな日のきみは大抵第2ボタンをかけ違えている

0729 サングリアの吉日

再会を祝し 弱い同士がサングリアで乾杯

彼女は両手で砕けた恋を掬い上げながら
「熱情は冷めやすいもの」ってどういう意味?
と目を丸くして僕に何度も問いかけた

ジプシーのギター弾きがテーブルへやってきて
長く伸ばした爪先で手招きするようにして
弦を弾きながらボサノバの旋律を紡ぎだす

恋はワイングラスみたいなものじゃない?
少し唐突な僕の答えに今度は彼女が目を丸める

飲めるかぎり何杯でも注ぎ足せるし
別のワインを試すこともできる
手の温もりが伝わる程好い厚さだけど
落としたら脆く粉々に砕けてしまう

じゃあ愛は?
そうだなワインそのものかもね

透明な白か燃えるような赤かは好みが別れるけれど
寝かせれば寝かせただけ味わい深くなるもの
温めることも冷やすこともできるけど
ワインそのものであることに変わりはない

でも飲みたいだけ飲むことはできるとしても
身の程を知らずして注ぎ過ぎると溢れてしまう

甘いのが好きか?
少し苦いのが好きか?
彼女ももう自分の判断力に自信を持っていい年齢
しっかりテイスティングしてから決めるといい

いつかよく冷えたサングリアを飲みながら
きみが歌う美しいボサノバを聞ける日が来るのを
楽しみにしています

0903 二度と来ない夏

飲みかけのサイダー
笑顔とピースを一網打尽にした記念写真
二度と来ない夏を見送って
僕らは日常に向かって歩き出す

あんなにおしゃべりしたはずなのに
何か言い忘れたことがあるような
訊き損ねたことがあるような
まるで目を閉じると見える残像のよう

いつかきみが遥々会いに来て
心の扉をノックしたら
ドアを開いて招き入れるよ
僕の本当の胸の内へ

1107 恋するカメラ

僕が見つけた小さな霞草は
吐く息の白さに似て
外界との触れ合いで生まれた結晶のよう
僕は近づいて
もっと細かな所まで横顔をのぞき込む
誰に微笑んだの?
僕?未来?
流れのない川
溶けたチョコレート
薄暗い微風
撃ち落とされたブラックバード
優しい人々を乗せた汽車が行くよ
まるで3月の朝の匂いのように
ゆっくりと時間を連れて走り去る
空を右側から開けて
土のせせらぎに耳を澄ませてごらん
きみが知らないのは言葉じゃない
それが悲しく見えたのは何故?
ほらね
きみが笑っても
時にはレンズ越しに
悲しみは聞こえてくるものさ
もう大丈夫
今度こそ僕に微笑んでごらん
カメラ チーズ ピース

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